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今月の鑑別室から 1996.09
天然スフェーン
最近、しばしば天然スフェーンが鑑別依頼で持ち込まれる。宝石品質のスフェーンは珍しいので、宝石学的特徴を以下に紹介する。(写真)

依頼石はたいてい数カラット程度であるが、なかには10ctを超えるスフェーンとしてはかなり大粒のものも含まれている。
 一般に5ctを超えるクリーンなスフェーンは希少で、宝石としての価値が高いと言われている。
 色はイエロー〜グリーンで、ややブラウンがかっているものも多い。色の美しさもさることながら、この石の魅力は、時に油脂光沢と表現されるような“てり“のある高い光沢と虹色のファイアである。
 これらの外観から、一見したところアンドラダイト・ガーネットやスファレライトを彷彿させる。
スフェーンの宝石学的性質は以下のとおりである。
化学組成: CaTiSiO5
主成分にTiを含むため英名でtitanite(チタナイト)、和名でチタン石ともローはFeが少なく、ブラウンやブラック(普通、宝石にはならないが)はFeが多いと言われている。
結晶系: 単斜晶系
しばしばくさび型の結晶で産するので、和名でくさび石の別名があり、ギリシア語で“くさび”を意味するsphenosが英名の語源になっている。
硬度 : 5〜5.5
やや硬度が低く、たいていファセット・エッジがやや丸みを帯びている。
比 重: 3.45〜3.55
屈折率: α=1.843〜1.950
β=1.870〜2.034
γ=1.943〜2.110
複屈折量: 0.100〜0.192
光学性: 二軸性正号
2Vz=17〜40(Tiが少ないほど小さくなる)
分散度: 0.051
この分散度の大きさが先述の強い虹色のファイアの原因である。
多色性: 三色性、明(普通からやや強い)
スペクトル: 時にディディミウム・ラインと呼ばれる希土類スペクトルが586、582、530nmほかに認められる。
蛍光性: 長波 変化なし
短波 変化なし
 スフェーンは、種々の火成岩の副成分鉱物あるいは片岩などの変成鉱物として産する。宝石質のスフェーンは後者である。産地としては、マダガスカル、オーストリア、スイス、
スリランカ、パキスタン、ミャンマーなどで、最も重要なのはメキシコである。


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