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今月の鑑別室から 1996.08
センター・クロス・ダイヤモンド
 宝石となる天然ダイヤモンドは、肉眼的にはクリアな完全結晶のイメージを与える。しかし、エッチング法、X線トポグラフ法やカソード・ルミネッセンス法(CL法)により成長時やその後の塑性変形による不均一性を検出する事ができる。特に成長時の不均一性は、木の年輪のような累帯構造となって現れるため、結晶の形の変化(等時間面の変化)や結晶方位による変化(等時間面上の変化)についての情報を提供してくれる。
 宝石質の天然ダイヤモンドは、通常{111}面で囲まれた八面体結晶となる。これは{111}面の成長速度が、他のどの面のよりも遅いためである。しかし、ごくまれに六面体面と八面体面で囲まれたMixed-habit Growthを示すことがあり、一般にセンター・クロス・ダイヤモンドと呼ばれている。これは{100}面の成長速度が{111}面の成長速度より相対的に遅れたことによる。(写真)
なぜ{100}面の成長速度が遅れるかについては、これまで{100}面上に不純物が吸着するためとされてきた。ところが最近、コーテッド・ダイヤモンド(単結晶のダイヤモンドを針状の多結晶ダイヤモンドが取り囲んだもの)の研究から、八面体と六面体の成長形の変化は、{111}面が平衡に近い状態から高い過飽和度での成長に変化したためという新解釈が与えられている。
 さて、当研究室では数年前からCL法を導入してダイヤモンドの研究を行っているが、特にカラー・ダイヤモンドについては、これまでに1000ピース以上を検査しており、紫外−可視分光スペクトル、紫外線蛍光、偏光下の歪複屈折、カラー・ゾーニング、インクルージョンなどと関連させてCL特徴を系統的にまとめている。これらの結果から、従来1/1000〜1/100と言われていたセンター・クロス・ダイヤモンド(Mixed-habit Growthタイプ)の出現率が、天然ピンク・ダイヤモンド(Iaタイプ)中には数個に1個の極めて高い頻度で出現する事がわかって来た。市場性から見て、これらのピンク・ダイヤモンドは、オーストラリアのアーガイル鉱山産と考えられる。アーガイル鉱山のダイヤモンドはランプロアイトを母岩としており、世界のダイヤモンド鉱山の中で特異な存在と言える。
 従来からキンバーライトを母岩とする大多数の鉱山のダイヤモンドとアーガイルのダイヤモンドには、成因的には本質的な相違は見いだされていなかった。もし、アーガイル産のダイヤモンドにMixed-habit Growthの出現率が高く、それが過飽和度の高い環境での成長に起因するとすれば、ダイヤモンドの成因論に一つの話題を提供することになるかもしれない。


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