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今月の鑑別室から 1996.04
マシーシェ・ベリル
 宝石学をある程度学んだ人であれば、サファイア・ブルーの魅力的な色ではあるが退色の可能性のあるマシーシェ・ベリルの名前を聞かれたことがあると思う。以下に、この石の現状について報告する。(写真)

最近、シンガポールで宝石のトリートメントにおいて一つの判決が言い渡された。これはマシーシェ・ベリル(正確にはマシーシェ・タイプベリル)を販売した業者が、購入後に退色したことを理由にバイヤーから損害賠償を要求されていたもので、原告側の勝訴となった。販売業者は「その商品がマシーシェであり、返品できません」とインボイスに記していたが、マシーシェが何であるのか、また退色する可能性があることについて説明しなかったために生じた悲劇といえる。この判決は、今後、業界に少なからずの影響を与えるものと思われる。
 さて、マシーシェ・ベリルとは、本来、1917年ブラジルのミナスジェライス州Arassuahy南東のPiauhy川近くのMaxixe鉱山から発見されたべリルについて与えられた名称である。このベリルは“インディゴ”、“コバルト”あるいは“サファイア”ブルーなどと表現される魅力的な濃色のナチュラル・カラーのブルー・ベリルであったが、光や熱に不安定で短い時間で退色することがわかったためにジュエリーとしては普及しなかった。
 1973年ごろ、マシーシェ・ベリルと同様の濃色のブルー・ベリルが宝石市場に再び登場し、一部でアルバニータ・アクワマリンなどと呼ばれていた。その後の研究で、これらの石はオリジナルのマシーシェ・ベリルとは若干性質が異なり、紫外線、X線、γ線、中性子線などの各種放射線を人工的に照射して得られたべリルであることがわかり、マシーシェ・タイプと呼ばれるようになった。このマシーシェ・タイプのべリルは、結晶構造中にCO3を持つブラジル、ノースカロライナ、旧ローデシア産等の淡色のモルガナイトやイエロー・ベリルを原材にしているといわれており、濃色のブルーのほかに原材の地色が黄色の場合には緑黄色〜緑色が得られている。いずれにしてもマシーシェ・タイプの色も不安定でオリジナルのマシーシェ同様、退色することが知られている。このようなマシーシェおよびマシーシェ・タイプ・ベリルの鑑別特徴として、まず第1に両タイプとも、通常のアクワマリンと異なり、光軸方向で濃い色が観察されることが挙げられる。第2に、スペクトルの赤色〜緑色にかけて数本の吸収バンドが観察される。第3に(これは実際の鑑別法としては不適当であるが)200℃に30分間、あるいは強い光源に数日間さらすと完全に退色する。


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