>>Topへ戻る >>「Research Lab. Report」タイトルリストへ戻る

今月の鑑別室から 1996.02
新タイプのフラックス法合成アレキサンドライト
最近、天然石と同様のトリリング(交差三連双晶)をしている合成アレキサンドライトに遭遇するようになった。天然石と識別が極めて困難で、今後、業界内において問題となる懸念があるため、以下にその特徴を報告する。

 ここ1〜2年の間に、鑑別に持ち込まれるアレキサンドライトのなかで合成石に遭遇する機会が増えてきている。これらは、統計的には結晶引上げ法によるものが主流であり、
その特徴については、すでにGEMMOLOGY 1995年5月号で報告している。
 今回紹介する合成アレキサンドライトはこれらとは異なり、フラックス法によるものである。フラックス法による合成アレキサンドライトは、1975年に米国のクリエイティブ・クリスタル社が特許を取得し、ファセット・カット石を市場に投入したのが最初である。その後、ロシア製のものが1980年代後半になって、ドイツやイタリアの宝石学術誌に報告されている。両タイプともフェザーや金属薄片の内包が特徴的であり、慎重に対応すれば、今まで特に問題になることはなかった。

 さて、最近になって遭遇するようになった新タイプのフラックス合成アレキサンドライトは、写真−1に示すように双晶しているのが特徴で、これは合成石としては過去に報告のないものである。その上、フェザー・インクルージョンが天然石の液体インクルージョンと酷似しており、不用意な拡大検査だけでは短絡的に天然石と判断しかねない特徴を持っている。
 現在まで全宝協技術研究室でチェックしたこのタイプの合成石は、0.4ct〜1ct upのファンシー・カットが施されたルースである。外観はやや褐色みを持つ中程度の品質のブラジル産天然アレキサンドライトに類似した青緑色〜赤紫色の変色性を示す。TOPCON製の屈折計でR.
I.を測定したところ1.742−1.750(0.008)で、天然石と完全に重複する。ただし、色の濃い天然石の多くは最大値が1.750を超えるので、R.I.測定は第1のチェック・ポイントとなる。長波紫外線下では赤色蛍光を示し、短波紫外線下では、やや弱めの赤色蛍光を示す。天然石の多くが示す短波紫外線下の黄濁蛍光は示さない。拡大下の特徴は、冒頭で記したように天然石と同様のトリリング(交差三連双晶)を示すことである。
トリリングとは、に示したように(130)面で接触した貫入双晶の一形態で、クリソベリルにしばしばみられる。この双晶面が段状の形態を示すものは、段状双晶面として天然クリソベリルの特徴といわれてきた。新タイプの合成石では、低倍率の拡大下では明瞭な段状にはなっていないものの、双晶面を持つものは天然という考えは、もはや通用しないであろう。

 さらに、フェザー・インクルージョンが天然石の液体インクルージョンに酷似しているため、レリーフや分布について細かくチェックする必要がある。このタイプのフェザー・インクルージョンの特徴としては、双晶面にからむように分布していることが多く、また、フラックス合成エメラルドと同様に細かい成長線に沿って配列していることが挙げられる。(写真−2)
 他の特徴としては、比較的均一な成長縞がある。これは、観察する方向によっては直線状のこともあるが、78°あるいは86°の特徴的な角度を有している。

1995年、国際宝石学会(I.G.C.)でのKarl Schmetzer氏の報告によると、この新タイプのフラックス合成アレキサンドライトは、1988年ごろロシアのノボシビルスクで製造が始められ、1994年からバンコクで供給されているらしい。合成された結晶の90%以上がトリリングをしており、10%が単結晶とのことである。
 溶剤としてはモリブデン、ビスマス、ゲルマニウムの化合物が使用されており、当技術研究室で分析した結果、個体差があるものの、相当量のゲルマニウムと錫が検出されている。



Copyright ©2000-2001 Zenhokyo Co., Ltd. All Rights Reserved.