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今月の鑑別室から 2009.02.24
コーティング処理されたゾイサイト(タンザナイト)
株式会社全国宝石学協会 技術研究室
岡野 誠(FGA, CGJ)、阿依アヒマディ(理学博士、FGA)

 青色のゾイサイトのコーティング処理が、2008年春頃から話題となっている。このコーティング処理について、海外で発行されている宝石学術誌上にてその詳細が報告された。全国宝石学協会(GAAJ-ZENHOKYO)でもサンプルを入手しており、その分析結果を交えながら以下にその概要を解説する。

 ゾイサイトで青~青紫色の色調の変種は別名タンザナイトと呼ばれ、1980年代にティファニー社によってプロモートされたことで一躍有名になった宝石である。
 このゾイサイトの中で淡青色の石を濃く見せる目的でコーティング処理が施されたものについて2008年5月23日付でAGTA-GTCとAGL(American Gemological Laboratories)のホームページ上にて速報が報じられた(Press release, May 23, 2008)。内容は、Evan Caplan of Omi Gems社から数点のコーティング処理されたゾイサイトのサンプルを入手したというものである。これによると、拡大検査および蛍光X線分析にてコーティングが検出されたと報じている。続いて6月6日にはGIAからもホームページ上にて速報が報じられた(GIA Insider, Vol.10, No,10 June 6)。GIAでは2006年から各種宝石のコーティング処理に対する研究を継続的に行っており、今回問題になっている処理石が初めて見られたのは、2008年4月頃と報告している。3ct以上のエメラルドカットが2点と4~5mmのラウンドカットが18点と多数のサンプルを分析し、上記のAGTA-GTC、AGLの速報と一致する結果が得られたと報告している。
 これらの速報はゾイサイトがアメリカでは人気のある商品である事情もあり、瞬く間に宝石ニュースサイトやブログ等に転載され、話題となった。
 日本でも時報光学新聞8月21日号に国内の鑑別機関における分析例が掲載され、ホームページ上でも紹介されている。同時期にGIA発行のGems & Gemology 2008年夏号にて「Coated Tanzanite」というタイトルでその詳細が報告された(McClure and Shen. 2008)。
 ゾイサイトに用いられたコーティングの方法についてはまだ明らかにされていないが、従来からコーティングが行われている宝石、例えばダイヤモンドはシリカ状物質、あるいはフッ化カルシウムに添加剤としてAu(金)やAg(銀)を添加したもの、トパーズはFe(鉄)やTi(チタン)、Co(コバルト)といった物質をコーティング材として使用しており、一般には真空蒸着によりコーティング層を100nm以下の厚さで形成しているといわれている(Shen et, al., 2007., Hayashi. 1997., Gemmology. Vol.32, 2001., Schmetzer. 2006)。
 全国宝石学協会でもコーティング処理されたゾイサイトを入手し分析を行った(図‐1)。

図-1:
コーティング処理されたゾイサイト


 コーティング処理そのものはダイヤモンドをはじめ様々な宝石で行われており、看破方法も従来のコーティング処理と同様の方法が応用できる。
 先ず拡大検査において、3つの特徴が挙げられる。
 パビリオン上のファセット面から観察される虹色のイリデッセンス(図‐2)。これはコーティング層間での光の干渉に起因するものである。反射光にて不自然なイリデッセンスが見えた際には処理の可能性を考えるべきである。
 ファセット稜線およびキューレット付近のコーティング層の剥離(図‐3)。表面反射による顕微鏡拡大検査でも確認できるが、小さい石では観察が困難なこともあるため高倍率の微分干渉顕微鏡で観察したほうが詳しく観察できる。
 検査石を白色の拡散板の上に置き、拡散板(あるいは白色の薄い紙)の下から強い照明を当てた状態での観察(図-4)。コーティング層が磨耗によってすり減り、剥がれた部分は色が抜けて見える。石を沃化メチレンに浸漬した状態で検査できればより明瞭に観察できる。この検査は特別な機材を必要とせず、かつ簡易に検査できるため、実際の検査にて最も有効な手段と考えられる。


図-2:
拡大検査におけるパビリオン部のコーティングによる虹色の色むら(イリデッセンス)
図-3:
微分干渉顕微鏡で観察されたパビリオン部のコーティングの剥がれ
図-4:
白色板を用いた拡散反射光による検査

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